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大分地方裁判所 昭和37年(モ)495号 決定

申立人 大分県地方労働委員会

被申立人 株式会社下ノ江大塚鉄工所

主文

被申立人は、被申立人を原告、申立人を被告とする当庁昭和三七年(行)第一号行政処分取消請求事件の判決の確定に至るまで、申立人が昭和三七年八月一八日大分県地方労働委員会昭和三七年(不)第六号及び同年(不)第一二号事件につき被申立人に対してなした命令のうち次の限度で従わなければならない。

(一)  被申立人は、速かに、昭和三七年五月一一日に別表記載の従業員に通知した賃上げ額をその余の従業員との衡平を失しないような案に修正して下ノ江大塚鉄工所労働組合に提示し、かつその協議決定のため同組合との団体交渉に応じなければならない。

(二)  被申立人は渡辺祐一郎を原職に復帰させ、及び同人に対し昭和三七年八月二日から原職復帰に至るまでの間に支給を受けるはずであつた給与相当額を支払わなければならない。

(裁判官 島信行 林義雄 藤原昇治)

別表

衛藤優   渡辺祐一郎 木津昭八郎

木津元一  日名子止  河野徳次郎

柴田晴海  遠藤森市  渡辺政義

大久保秀章 大塚承次郎 足立英昭

伊東幸一  佐々木茂生 大久保征一

〔参考資料一〕

緊急命令申立書

申立の趣旨

右当事者間の大分地方裁判所昭和三七年(行)第一号行政処分取消請求事件の判決が確定するまで被申立人は昭和三七年八月一八日付をもつて申立人の発した救済命令を履行しなければならない

との裁判を求める。

申立の理由

一、被申立人は陸舶用機関の製造販売並に修理を業とする株式会社であり申立外下ノ江大塚鉄工所労働組合は昭和三五年五月二六日結成され原則として被申立人の従業員をもつて組織する労働組合である。

二、昭和三六年株式会社大分大塚鉄工所の設立に伴い被申立人は同年一二月から昭和三七年五月までの間に工作機械一〇数台を右申立外会社に移すとともに前記労働組合の組合員に勧奨して五人を右申立外会社に出張させ、出張後は申立会社を退社して右申立外会社に入社させ、また七人が退社して右申立外会社に入社させた。

右一二人は被申立会社を退社する前後に相ついで前記労働組合を脱退した、右のうち板井実雄は昭和三七年六月から右申立外会社に在籍のまま被申立人の工場に勤務している。

三、昭和三七年二月二六日前記労働組合は被申立人に対し賃金日額平均一三〇円アップを中心とする要求書を提出したところ四月一七日に至り被申立人は前記組合員三六人について一円から七七円までの個人別賃上額を昇給の最終案として口頭で回答した。

その翌一八日と同月二五日とに団体交渉が行われ右回答の根拠について組合から説明を求めたが被申立人はなんら具体的説明をしなかつた、また被申立人会社代表取締役は組合の要求にかかわらず団体交渉には一度も出席しなかつた。

四、五月一一日に至つて被申立人は組合の納得了解のない前記個人別昇給額を文書で全従業員に通知した而して四月一八日から六月一日までの間に組合員一一人が組合を脱退し昭和三六年末四〇人余りあつた組合員が現在では二〇人となり会社従業員約五〇人の半数に満たなくなつている。

五、被申立人は昭和三七年六月頃から前記組合の組合長、副組合長、書記長の三名に対し口実を設けて懲戒手続を開始した、そのためか組合長は七月一〇日辞表を出して退社したが副組合長渡辺祐一郎及び書記長木津昭八郎は被申立人の勧奨にもかかわらず辞表を出さなかつたところ八月二日副組合長を、同月一二日書記長を何れも懲戒解雇処分に付した。

六、申立人は前記労働組合より不当労働行為救済の申立を受けたので調査審問を遂げ公益委員会議の結果八月一八日被申立人の前記第三項記載の所為中衛藤優ら一五人に対して為した昇給額の通知は労働組合法第七条にいう不利益な取扱いと認めてその修正を命じ且つ被申立人の従来の態度は誠意ある団体交渉とは認め難く一種の団交拒否にほかならないから誠意ある団体交渉をすることを命じ、また副組合長渡辺祐一郎に対してなした懲戒解雇は前記法条にいう不利益な取扱いに該当するものと認め右懲戒解雇を取消して原職に復帰せしめ且つ解雇の日以後同人が当然受けるべきであつた給与相当額の支払を被申立人に命令した。

七、申立人はその後八月二八日付を以つて被申立人に対し前記命令の履行状況の報告を求めたが被申立人は今日まで申立人に何等報告もせずまた申立人の命令を履行していないように思われる。

八、被申立人は昭和三七年九月一四日申立人の発した前記救済命令の取消請求訴訟を御庁に提起し右事件は昭和三七年(行)第一号事件として係属中である。

九、しかし右訴訟の判決があるまで前記救済命令が履行されなければその対象となつた労働者及びその家族は生活に苦しみ取返しのつかない損害を受けるであろうしひいては労働組合法の立法の精神も没却されることになるので申立人は昭和三七年一〇月一六日第二一九回公益委員会議において労働組合法第二七条第八項の規定に基く申立をすることを決議した。

よつて右決議に基き本申立に及んだ。

〔参考資料二〕

救済命令主文

一、被申立人会社は、昭和三七年五月一一日に下記の者に通知した賃上げ額を他の者との衡平を失しないように修正して、同年八月二五日までに申立人組合に提示し、誠意ある団体交渉によつて協議決定しなければならない。

衛藤優 渡辺祐一郎 木津昭八郎 木津元一 日名子止 河野徳次郎 柴田晴海 遠藤森市 渡辺政義 大久保秀章 大塚承次郎 足立英昭 伊東幸一 佐々木茂生 大久保征一

二、被申立人会社は、渡辺祐一郎に対する昭和三七年八月二日付懲戒解雇を取消して原職に復帰せしめ、解雇の日から復職の日までの間に同人が当然受けるべきであつた給与相当額を支払わねばならない。

三、被申立人会社は、その費用をもつて下記文書を縦横各一メートルの白木掲示板にできるだけ読み易いように墨書し、昭和三七年八月二五日までに被申立人会社工場入口の従業員の見易い場所に立て、一〇日間にわたつて存置しなければならない。

誓約書

株式会社下ノ江大塚鉄工所は、誠意ある団体交渉をなさず、組合役員等に不利益な処遇をなし、また組合役員を正当の理由なく解雇して組合運営に介入したことを認め、深く陳謝するとともに今後かかる行為をしないことを、大分県地方労働委員会の命令によつて誓約します。

昭和   年   月   日

株式会社下ノ江大塚鉄工所

右代表取締役 大塚寿郎

下ノ江大塚鉄工所労働組合

副組合長 渡辺祐一郎殿

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